アジアフィル

2010年8月2日〜10日


久しぶりに海外へ出る機会に恵まれた。海外公演は7年ぶりかな。しかも今回は東京フィルではなくて、アジアフィル。日本と中国、台湾、韓国のオーケストラプレイヤーによる合同オーケストラだ。チョン・ミョンフンさんの指揮ですでに10年以上活動している。東京フィルもチョンさんとの関係からいつもメンバーを送ってきたが、僕にとっては今回が初参加となった。曲目がベートーヴェンの田園、ブラームスの4番という僕の好きなプログラムだし、特にトップでということだったので是非参加したいと思った。

韓国からの参加は大半がチョンさんが音楽監督を務めるソウルフィルのメンバー、中国、台湾からの参加者は欧米のオーケストラで活躍する人たちで、ニューヨークやシカゴなど一流どころの首席なども参加してくる。これは気合いを入れてかからないと。東京フィルの名誉に掛けても。

この企画に参加するプレイヤーに対し主催者が敬意を持って臨んでくれていることはホテルの豪華さからもわかる。北京の最高級ホテルThe Regent Beijingはこれまで泊まった海外のホテルと比べてもかなり豪華だ。
広い部屋に大きなベッド、勉強机、ソファー、衣装ダンス、本棚、ゴージャスなバスルームなど行き届いている。部屋に置かれたウェルカムフルーツの梨はやや縦長だけど味は日本の梨に似ていた。3個おいてあり、食べれば補充された。

朝食はビュッフェで洋風、中華のほか和風もあった。5泊6日の滞在はなかなか快適だった。

初めの3日間はリハーサルなので夜は時間があった。仲間と食べに出るのも楽しみだった。初日はごく庶民的な店で、二日目はいくらか高級なレストランで、そして三日目は6人でしゃぶしゃぶ風に、いずれも中華の味を楽しんだ。
8月6日、初めてホールに入った。National Centre for the performing Artsは地下の殺風景なリハーサル室に対してホールは立派な構えだ。ホールへ来るとやっぱり気分が高まって、さあやるぞという気になる。

3日間のリハーサルを通じて弦楽器の首席やチェロセクションのメンバーとはいくらか親しくなった。ゲネプロでヴィオラの首席、サンフランシスコ響のYun Jie Liuから田園の冒頭でヴィオラとチェロの5度の出だし、特に繰り返しのときのタイミングについてお互いに見るようにしようとアドヴァイスがあった。見てはいたつもりだったけれど、はっきり意志が通じた方がもっと確実になると思ったから、OKと言った。このことがきっかけになって彼とは要所ごとに見合うようになり、コンタクトが取りやすくなった。またコンサートマスター、シカゴ響のRobert Chenやセカンド首席のDan Nobuhiko Smiley(サンフランシスコ響)に対しても極力はっきり見るようにした。

弦楽器の力強さがなかなか印象的で、みんなの積極的な弾き方が魅力だった。隣のYao Zhao(サンディエゴ響)始めチェロセクションは、初めて来ていきなりトップに座った僕によく付いてしっかり弾いてくれるので心強かった。

勝手知ったチョンさんの指揮も僕には弾きやすかった。本番初日は不必要な緊張もせず、無事に終わった。
7日、北京から韓国のインチョンへ飛び、バスでソウルのホテルImperial Palaceへ来た。初めて見る韓国の街並み。高速道路や建物が近代的な雰囲気で、植物が日本と似ているせいか、景色に親しさを感じた。ホテルは北京のホテルに比べるといくらかこじんまりしたが、落ち着いた雰囲気が気に入った。
窓から見ると真下にプールがある。おや?その向こう、細い道を挟んで向かい側に教会がある。小さいけれど新しくきれいな教会で、何となく気持ちを惹かれるものがある。明日は日曜日だな。ちょっと訪ねてみようかな。

普段ちっとも教会へ行きもしないくせに、日本を離れてふと見つけた教会に行ってみたくなったのはなぜだろう。

8日、朝食後教会へ行ってみた。ホテルに沿ってぐるっと回ってみるとその教会はすぐに見つかった。St. Monica Anglican Churchと書いてあった。聖公会だ!わけもなくうれしかった。写真を撮っていたら誰か信者さんらしい女性が入っていった。追いかけて入り声を掛けた。日本から来ました。日本の聖公会三光教会のメンバーです。そんな自己紹介がごく自然にできた。そこへ司祭様が出てこられた。ミサに加えて欲しいと言うと11時からだから来なさいと歓迎してくださった。
一旦ホテルへ戻り、ひと休み。なんだか不思議なうれしさに満たされていた。10時半くらいになって窓から見ると、教会に出入りする人や車が増えていた。そろそろ行ってみようかな。

教会へ入ってすぐ右が食堂になっていて、女性たちが茹だったばかりの鶏をほぐしていた。テーブルには比較的高齢の方々が数人ずつ談笑している。そこへ入っていって自己紹介すると、英語の話せる方が相手をしてくださった。
ミサの時間が近くなると地下の聖堂へ案内してくださった。聖堂に入ると朝お会いした司祭様もいらして、案内してくださった方に『彼をよろしくお願いします』のようなことをおっしゃった。お名前をきちんと伺い損ねたのだけれど、キムさんとおっしゃったように思う。左側の前から2列目に案内されると、レースを被った女性信徒の方が数名にこにこと迎えてくださった。三光教会と同じような週報をいただいたがさっぱり読めない。するとキムさんが隣に掛けてひとつひとつ教えてくださった。内容はもちろん、歌ミサでほとんど三光教会と同じ礼拝スタイルなのでだんだん様子がわかってきた。
礼拝のあとアナウンスがあって、最初に新しく来た人を紹介するのも三光教会と同じ。『日本から来たチェリスト、東京フィルのメンバーだが今回はアジアフィル、マエストロ・チョンの指揮で演奏している』とキムさんが紹介してくださると、みんなが暖かく拍手してくださった。

退堂すると食堂で先ほどの鶏で作ったクッパとキムチのお昼をご馳走になった。キムさんのほか日本語を話せる方や司祭様も席に加わってくださって楽しくおいしくいただいた。最高級ホテルの食事より心に残る食事だった。思いがけず心満たされる日曜日を過ごせた。

午後3時に集合、バスでインチョンの会場Inchon Culture and Arts Centerへ。ゲネプロと本番を終えてバスでホテルへ。明日ソウルでの最終公演を残すのみとなった。
9日、朝食後もずっとのんびり部屋で休んでいた。さすがに最終日となってやや疲れも感じたし、中国以来お腹の調子がよくなかった。午後の集合時間にロビーへ降り、バスで会場Seoul Arts Centerへ。いよいよ最終公演。

ゲネプロではマエストロが思いの外厳しく細かい指示をした。終わりに至って少し気の抜けたメンバーの気を引き締めるような意図だったのか。確かにこの日の公演が全体のメインと考えられる。最後をしっかりいい演奏で締めくくりたいと思う。
今回の参加期間中、意外に写真を撮っていない。今日で終わりと思ったら少しは撮らなきゃと仲間にもカメラを向けた。左はロッテルダムフィルの脇さん、右はニューヨークフィルのQiang Tu。
初めて参加したアジアフィルはとてもいい経験になった。積極的に演奏する彼らの演奏は刺激になった。この経験を自分のオーケストラ演奏に生かしたいと思う。

もう一つ、このような芸術を通じての交流がもたらすものについて韓国の新聞取材を通して考えた。歴史上の痛みを取り去ることはできなくとも、将来へ平和な関係を築き維持していくことには大きな働きになると思う。これから先もアジアフィルの活動が継続し、また参加できる機会があればと思う。


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