生きてる庭に  2011年3月から5月


年に一回くらいしかいじらないから、毎年荒れ果てた可哀想な庭を春頃になると急に何かしたくなって、丸一日かけて花を植えたり枝を切ったりする。そしてそれが何年かするうちに、いずれ土になれ!とばかりに隅の方に捨てていた枝の切りくずや、壊れたトレリスなんかが腐りきれないでただのゴミ捨て場のようになっていた。それが目に余って、あるとき思いきってそのゴミの山を切り崩した。そうしたら下の方は案外いい感じに腐葉土ができていたし、上の方のゴミもほとんどが木だからただ捨てるのもどうかなと思った。昔なら庭で焼いて灰にして埋めることもできたんだけど、今はやたらに焚き火もできない。それで枝と廃材は分けて、廃材はゴミに出し、枝は庭の隅を掘って埋めて上に土をかぶせた。土が被ればそのうちに土になるだろう…

わずかにできた起伏、なんだか楽しくなった。そこへ芝を植えた。高くなったところにこしらえた煉瓦とタイルのスペースもちょっとしたアクセントになったかな。2010年の4月の大改造だった。案外芝も育って良かったんだが…
とても気に入っていたんだけど、一年経ったら煉瓦がだいぶ型くずれして、芝も手入れが悪く哀れになった。一昨年の白い砂利の道も汚れてきていた。だめだ、やり直し!それでも起伏を作るという基本構想は悪くなかった。よし今度こそ。

『緑の庭』にするには土が足りなくてずいぶん買い足した。コンクリートのタタキを埋め、土の面積を広げた。でも起伏はもっと作りたい。また土を買いに行かなきゃなんないかなぁ。そうだ、花壇の土を使おう。ドクダミの根を取るのと、肥料を入れるのを兼ねて思い切り掘っちゃおう。その土をあちこちに使えばいいや。あとで埋め戻す方が能率がいい。花壇に植わってた球根を別のところに移してどんどん掘った。その土は主に庭の奥の方を高くするのに使った。だいぶ高低差ができたな。高いところは『丘陵』と呼ぼう。

花壇にできた大きな穴を見てたら、ふと池が作りたくなった。そうだ、埋め戻すにもかなりな量の土がいるから、いっそのこと池にしよう。流れも欲しいな。高低差を利用して水が流れるようにしよう。

早速ネットで調べて池の作り方やポンプの種類を調べた。うーむ、結構費用がかかるなぁ。ポンプと池に敷く防水シートだけでもかなりかかるし、浄水器を付けたらさらに高くなる。一度は諦めかけたけど、『池を中心に水生植物や昆虫や、蛙や、小鳥たちが集まる庭』といううたい文句に惹かれてやっぱり作りたくなった。
丘陵に水源を置き、そこから流れ出た清流は木蓮の足下を流れて池にそそぐんだ。水源へはポンプで水が上げられて循環する。浄水器なんか要らないや。水源にした大きな鉢に笊と砂利と竹炭を入れてやれば手製の浄水器になるだろう。

だいたいの形を決めて池らしく整形する。雑草シートの古いのがあるから土の崩落留めにしよう。
なるべくナチュラルなのがいいから、小鳥の餌台もキンモクセイの枝を切ったので作り直した。鳥たちも気に入ったみたい。
このあたりまでの作業をして、注文したポンプやシートやホースが届くのを待つ。いいお天気が続き作業ははかどったが、品物が届くまでの数日は雨になった。土がしっとり濡れてちょっと落ち着いたかな。

3月11日に東北、関東を大きな地震が襲った。津波が被害をかつてないほど大きなものにし、たくさんの犠牲者が出た。町や村がたくさん壊滅的な状態になった。福島の原発が被災し、想定できなかった事態が次々に起こった。放射能が漏れ出て、近隣の人たちはふるさとを追われて避難させられた。余震が続く不安な日々。果てしなく長い復興への道のり。日本全体が暗い気持ちになった。

僕たち音楽家の仕事はほぼひと月キャンセルされ続けた。予定していたコンサートができず、むなしい時間が流れた。家で待機していたとき、作りかけの庭に春の生気がみなぎっていて気持ちを明るくしてくれた。被災地にも春が来るようにと祈りつつ、再び庭作りに励んだ。
池を作るために必要だったものが届いた。防水シート、循環ポンプ、ホース。掘ってあった穴にシートを敷く前に、穴あき防止のため古いカーペットを敷いて石や根などの突起物を覆った。形の不規則な穴にシートを敷くのはなかなかたいへん。苦労して何とか敷けた。川も曲がっているので3枚くらいに分けて敷いた。循環ポンプから水源に見立てた植木鉢までのホースが思ったより短くて、川は初めの構想の半分くらいの長さ、水源がだいぶ手前になった。まあ、レイアウトは悪くないかな。池に水を入れて電気を通したら、噴水が上がり、ホースで水源に上げられた水が川を流れ下って池にそそいだ。せせらぎのような水音がすがすがしい。
池が思った以上にうまくできてうれしくなった。川が流れ水音がしていると生きた自然を感じる。小鳥たちが前よりたくさん来るようになったし、種類も増えた。鳩が川の水を飲んだり、カワラヒワが水浴びをしに来たりする。庭が気に入ったのは僕だけじゃないんだな。

花や芝を買いに園芸店に出かける。とてもいっぺんに買いそろえられないけれど、思いつくものをいろいろ買ってきて植えた。丘陵地は2種類のツゲとアセビを植えて高さの上に立体感を出した。ハーブをいろいろ植えたかったので、ミント、ローズマリーはそれぞれ2種類、ほかにカモマイルを植えた。池の周りにもバコパなど広がっていく花を植えた。高麗芝をできるだけ敷き詰めたけれど丘陵地は形が不規則で植えにくい。そうだ、西洋芝の種を撒こう。
植えた花はどれも環境が気に入ったのか元気に根付いた。これらが大きくなって広がっていくのが楽しみだな。
芝も今度はきれいに育つかな。手入れ次第だろうな。今年はしっかりやろう。さてそうなるともっと芝の面積を増やしたくなってきた。白い砂利の道が途中まであるのがなんだか中途半端な感じ。思い切ってアーチの向こうまで芝にしてしまおうかな。思い立つとすぐやりたい。砂利をどかし土を入れ、煉瓦の飛び石を置いた。
高麗芝を買い足し、アーチまでの道を全部芝にしたらとても広々した。白砂利の部分は庭の入り口から水場の前まで。こうしてみるとなぜこうじゃなかったんだ?と思えるくらいしっくり自然な景色になった。
4月も半ばを過ぎた。芝や花や新緑が日々変化する。毎朝目が覚めるとまず庭を見るのが楽しみな日課になった。明るくなるのも早くなってきて、5時にはもう起きたくなる。この日、庭の側のカーテンを開けると、西の空に沈もうとしている月が見えた。

震災後ひと月くらいキャンセルが続いたコンサートも少しずつ再開してきたけれど、世の中は復興に向けての支援や節電が実施されて、生活にも何かに付け影響があった。被災地の状況はなかなか改善されないけれど、人々は自力で生き抜く努力をし始め、厳しい現実にもたくましく立ち向かう姿に勇気づけられる。我々フィルハーモニーカンマーアンサンブルのコンサートは明日、様々な想いが演奏に投影されるだろう。朝を迎えるたびに日々美しく成長していく植物たちの姿を見ると、心に音楽が響いてイメージが湧いてくる。
5月になると気温も上がり、急に初夏のようになった。芝もかなり生えそろってきたし、次々花が咲き、咲き終わった花は種になりあたりに子孫を散らした。少しずつ花を植え足し、だいぶ全体がいい感じにまとまってきた。今回はまず地形を作り、土を作った。牛糞などの肥料を混ぜ込んだ土はほくほくとして、植物が植えられると優しく包み込む。庭に出て花や木に話しかけるのが全く当たり前なことと思うようになった。池にはアカヒレというメダカくらいの魚を放流した。彼らが元気に泳ぐ姿にもつい微笑んでしまう。母が見たらきっと喜んでくれるんじゃないかな。
庭の入り口。白い砂利の部分がここだけになったけれど、充分存在感がある。左は庭好きの叔父叔母の庭と続いている。右のガラスのところが毎朝楽しく食事をしたりお茶の時間を過ごすサンルーム。ガラスの際にはオリーブの木が3種類、今それぞれが花盛り。実になるかな。
このあたりは蕗やシダが覆っていた。少しは残したけれど、広く土を掘って根や地下茎を取って肥料を入れた。左のあじさいはもう長くあるガクアジサイ。壁際の木は左が樅、右がキンモクセイ。その右に根しか残っていなかったあじさいを植えておいたらとても元気よくあっという間に大きくなってきた。葉の色がやたらに濃い。その右は香り椿とスイカズラ。手前に白い花が咲いているのはスズラン。お隣から分けていただいた。その奥のスミレもお隣に群生していたものを少し分けていただいたんだけど、うちでも増えたらいいな。
アーチのところにはツルバラ、ロココ。隣に黒点病を防ぐというミント、ペニーロイヤルを植えた。このアーチにはかつて一穂が幼稚園の遠足で買ってきた割り箸くらいのバラが絡んで2階まで届く大木になった。数年前にとうとう枯れたけど、今度のも元気に育つかな。
砂利をやめて芝にした道。断然広さを感じるようになった。芝の緑と煉瓦の赤がすてきなコントラストになった。
アーチの右側はツルバラのバフビューティ。サンルームの際はミニバラと一重のバラ、バレリーナが並んでいる。間にペニーロイヤルと、その前にはレモンバームとカモマイル。
道の左右手前は季節毎に植える花のスペース。左はヒヤシンスやチューリップが咲いて、そろそろ終わろうとしている。その後ろには新顔のリキュウバイと古株のギボシ。大きな木は楓、その向こうは清楚な花を咲かせる白い椿、その種が落ちて出てきた子供たちを壁際に3本植えてある。さらに向こうは真っ赤な花のシャクナゲ。その足下はムスカリやスノーフレークなどいろいろな球根が次々花を咲かせる植えっぱなしのスペース。右はこれから。
道の右側、サンルームの際に2階まで届く大きなノウゼンカズラがある。母が亡くなるまで一つも咲かなかったが、その年からものすごい勢いで咲くようになった。たくましいその足下に新顔が2つ。
ラズベリーは蕾を付けたと思ったらすぐに花が咲き、その日のうちに花びらが落ちてベリー系のガクがやがてそこに大きくなる実を予見させる。
ツタンカーメンの墓から出てきたという赤紫のサヤエンドウ豆。ノウゼンカズラに巻き付きながら大きくなって赤い可愛い花が咲いたと思ったら、いつの間にか小さなさやになっていた。今のところ3つくらいかな。さやの中の豆を豆ご飯にするとおいしいんだそうだけど、今年は家族3人で数粒ずつくらいにしかならないから、来年のために種にしようかな。
池の端とその反対側に大きな葉のカラーがあってもう見事な白い花を咲かせ始めた。毎年30本くらい咲く。だいぶ以前に姉のところから分けて貰った株がこの庭と相性がよかったらしくて、場所を移すたびに別れた株がそれぞれ育って今は3株。今年もそれぞれが花を咲かせている。
カラーの周囲は蕗の保護区。やたらにはびこるからほかの場所は制限したけれど、ここだけは育ちたいだけ育つことを許している。早春のフキノトウ、そして今は薄揚げと煮浸しにして季節の味と香りを楽しんでいる。さらにこのあたりは夏に向けて茗荷がたくさん採れる。すでにたくさん芽が出始めた。庭からの収穫は最高の贅沢。
丘陵へ続く坂道。途中まで高麗芝、奥の方は西洋芝が地面を覆って爽やかな緑になった。ツゲやアセビが今は小さいけれど、だんだん大きくなってやがてこのあたりがもっと立体的になるんじゃないかな。手前の木は夏みかん、左奥はハナスオウとキンモクセイ、右はうちの庭で一番大きなモチノキ。その足下にはローズマリーが2種類。
モチノキの右手前に水源がある。湧き水ならいいんだけど、ポンプで循環している。ホースから来た水は植木鉢の笊と竹炭と砂利で漉されて下から出てくる仕組み。
モチノキの右奥にレミくんのメモリーのベイリーフがある。レミくんが亡くなったとき姉がくれた寄せ植えの中で育っていたものを植えたんだ。新しい芽がどんどん出てきた。右の煉瓦で囲った中はスペアミント。
水源から池へ流れる川。左の木は木蓮。
一番奥に物置があって、その前がコンクリートのタタキだったので煉瓦を敷いたらすてきなお休み処になった。ここに椅子とテーブルを置いてお茶をするといいだろうな。透明な屋根を通してミズキの明るい葉が見え、木蓮やモチノキが優しい木漏れ日を作ってくれる。せせらぎの爽やかさが心に安らぎを与えてくれる。小鳥がさえずり、餌を食べたり水浴びをしにやってくる。池には魚が泳ぎ、もしかしたら蛙が来て卵を産んだらオタマジャクシが泳ぐ池になるかも知れないな。生きてる庭、なんてすてきなんだろう。

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