さや堂 テストレコーディング

2005年10月14日


前からここで弾いてみたいと思っていましたが、なかなかチャンスがありませんでした。以前一度東京フィルの室内楽コンサートをしたことがあり、そのときの印象はちょっとあり得ないほどの残響のすごさでした。しかしこの特殊な音響はきっと何かいい効果をも生む可能性があるはずだと信じていました。ヨーロッパの教会や王宮のサロンは実際ものすごい残響ですし、古い曲が書かれた当時はその音響を想定していたはずです。演奏される建物が変わり音響が変わるにつれ当然編成やテンポも違ってくるでしょう。また古いものばかりとは限りません。案外新しい作品の中にこの音響がプラスに働くものがあるのではないか…。そんなことを考えていたときに、ふと同級生の石黒晶君の絃歌三章(チェロソロのための)を思いつきました。早速石黒君に連絡を取り、日程を合わせてとりあえずさや堂でのテストレコーディングをすることにしました。
はじめはやはり想像以上の残響に演奏の側からも録音技術の側からも試行錯誤が必要でした。でも演奏については耳が慣れるにつれ響きを利用した間の取り方や語り口、また最弱音から最強音まで普段より広いダイナミックレンジを生かした表現など新たなイメージが広がってきました。

録音ははじめマイクを離していましたが次第に近づけ、ついにこの近さまで来ました。生音を多く録り残響を適度に遠ざけるセッティングです。

作曲の石黒君も立ち位置を変え距離を変えて演奏を聴きます。
録っては聴き返し、また弾くを繰り返します。だんだん演奏に集中するようになってくると、さや堂の響きがもはや楽器をコントロールするように自分のものになってきたように思われます。
開放弦の多い第1楽章は迫力ある響きで圧倒的な印象です。またピッツィカートも効果的に響きます。第2楽章のゆったりした旋律は瞑想的で、響きのおかげで息も長くたっぷりと歌うことができます。第3楽章は分散和音が和音としての存在をはっきり示す効果が生まれました。後半の激しい部分も今までよりずっとスケールの大きな演奏になりました。
作曲家と演奏家の共同作業で曲が練られていきます。作曲家の意図も大切ですが、演奏家の感性が曲をどうとらえるかはさらに大切です。曲が本当に完成するには、作曲家が手を加えなくなってから先まだまだ何度も繰り返し演奏されて、練られ、踏み固められなければなりません。
この日のレコーディングではさや堂の響きを理解するため、そしてそこでの最高の演奏のためにいろいろと実験的なこともしてみました。その手応えは確かなものでした。そして…
2005年11月17日、確信を持って臨んだ本録音は、何が何でも立ち会うと大学の授業をはしょって駆けつけた石黒君に最後のチェックをお願いして行われました。録音スタッフはメディアチャパの今井君、それにマイクの制作者の毛利さんも来てくださいました。さてその結果は…こちら


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