フィルハーモニーカンマーアンサンブルコンサート in オペラシティ
2011 April

4月21日(木) 7時開演 東京オペラシティ リサイタルホール


3月11日に起きた東日本大震災の影響は大きく、我々音楽家は相次ぐコンサートのキャンセルでほぼひと月仕事ができない状況でした。被災地の惨状を思うと演奏することがはばかられるという以上に、音楽に向かう気持ちになれない不安な日々でした。収まらない余震や原発からの放射能の影響に誰もが過敏になったと思います。

4月の第2週目あたりからようやくコンサートも再開され、オーケストラも無事に定期公演を迎えることができました。我々フィルハーモニーカンマーアンサンブルも何としてもこの日の定期公演はやりたいと、気持ちが高ぶるのを感じていました。

練習で仲間が集まり、もうお互い何度も弾いている名曲ならではの楽しい雰囲気の中に、私には何かいつもとは違う音楽が見える気がしてなりませんでした。
今回のメンバーのうち、ヴァイオリンの青木くんとはこれまでにCD(2008年4月、2009年4月)も出したほか、オペラシティ以外のコンサートでもたくさん協演している最も信頼しているひとりです。彼のすばらしさはその心の純粋さだと思っています。彼の音楽は全てそのことの現れです。今回一緒にシューベルトを演奏することができてとても心強く思います。
コントラバスの茅乃さんはフィルハーモニーカンマーアンサンブルのオペラシティコンサートには初登場です。東京フィルの副首席としてオーケストラではいい信頼関係です。室内楽でもこれまでいくつかのコンサートで協演してきましたが、今回『鱒』の協演はずっと前から楽しみでした。

『死と乙女』では1月に続いてヴァイオリンの依田くんが加わり、ヴィオラの中村くんとともに若いパワーを発揮してくれると思います。
開場前からロビーには大勢のお客様がいらしてくださいました。今回は大震災の被災地への義援金としてチケットの売り上げを全額寄付することを決めていました。そのため多くのお客様がご協力下さり、チケットの売り上げは普段より多く、またコンサートにいらっしゃれない方がチケット代としてご寄付下さいました。また、青木くん、依田くん、中村くん、茅乃さん、さらにスタッフの今井くん、仁科さん、毛利さん、宮本くん、デザインの美香さんも今回の演奏会には無償で参加してくれました。オペラシティもチャリティについてのポスターを作ってくれるなど、多くの方々のおかげで多くの義援金を準備することができ、本当にみんなでできることを結集できたという点でうれしく思いました。
皆さま、今宵はようこそお出でくださいました。
震災のあとひと月近くコンサートのキャンセルが続き、今こうして皆さんの前にコンサートのために再び立つことができ、演奏家が演奏できることがこんなにうれしいことだとあらためて思いました。私にとって今夜のプログラムは偶然にも今の気持ちを一番表せる曲目でした。心を込めて演奏したいと思います。
シューベルト 弦楽四重奏曲 ニ短調 『死と乙女』

青木高志
依田真宣
中村洋乃理
黒川正三

冒頭のテーマはベートーヴェンの『運命』のテーマに共通する気がします。全曲を通してこのテーマは形を変えながら随所に出てきます。第1楽章の結末から第2楽章への繋がりはきわめてデリケートな空間です。何度も演奏してきたこの曲ですが、今回このメンバーで演奏して、あらためてその劇的な音楽のすばらしさ、そして人の苦悩や悲しみ、そして希望など音楽の生み出される奥深い心の泉の存在を感じました。
手作りの義援金ボックスにはお客様から多くのご寄付をいただきました。
シューベルト ピアノ五重奏曲 イ長調 『鱒』

黒川文子
青木高志
中村洋乃理
黒川正三
小笠原茅乃

生き生きと明るいこの曲もこれまで何度となく演奏してきましたが、今回ほど楽しく思えたことはありません。一つ一つの音に命があり、一つとして疎かにできるものはありません。みんなで作り出す響き、流れ、そして音楽は生き生きとホールに満たされました。音楽をやってきてよかった!仲間がいてよかった!幸せなひとときでした。
プログラムを演奏し終えてとても大きな満足感がありました。最後にもう一曲、シューベルトの歌曲集『冬の旅』から『菩提樹』を演奏しました。この日のために、このメンバーのために私がアレンジしました。ふるさとの門に立つ1本の菩提樹、楽しい思い出も辛い思い出もその木には刻まれています。『帰っておいで、ここにおまえの憩いがあるんだよ』という菩提樹の声が、遠く離れた地にいる自分の耳に今も聞こえる…

時間が経っても癒されない悲しみを心に負った多くの方々、そして犠牲となった多くの命に平安が訪れますように。
MY FAMILY &
PHILHARMONIEKAMMERENSEMBLE